「脱毛」を売っていた私が
「ムダ毛」を疑ってみた
飯田光穂(WEBメディア編集者)
2019.08.05

はじめまして


はじめまして、飯田 光穂(いいだ みほ)です。
20代は美容皮膚科に看護師として勤務していました。
天職だと思っていたはずが、現在はWEBメディアの編集をしている32歳です。



私は、気がついたときには既に外見のコンプレックスが強い子供でした。
“薄顔”という概念を知らないうちは、周りの子と比べてなにも特徴がないから自分の顔はおかしいんだと悲観していたし、中高生のころはメイクしても手の打ちようがないと絶望していました。
外見の話題になると芸人さんのように面白く返せず、話題が変わることを願うばかりの卑屈な10代でした。

看護師になり大学病院の手術室で少し働いたあと、美容皮膚科へ転職。
「今のご時世、お金を払えば外見の悩みなんてどんどん解決できる。
自分の外見が嫌で他人をうらやんで卑屈に暮らすよりも、残りの人生の長さを考えたら1日でも早く解決して楽しく生きたほうが絶対コスパがいい。
と信じていたので、私のコンプレックスで悩んだ経験も患者さんに還元できて会社の役にも立つ、これが天職だと感じていました。

それなのに6年働いたある日、ふと
「私が売っている施術や化粧品はなんのためなのだろう」
「なぜ私たちは美しさの基準を共有していると疑わずにいるのだろう」
「美容って、外見って、なんだ?」
と思い始めるようになりました。
今はWEBメディアを編集する仕事に転職し、女性と外見の関係を毎日考えています。

このコラムでは、そんな私と一緒に「外見って、なんだ?」と考えていただければ幸いです。

体毛は美しくない?




いよいよ夏本番。
テレビCMに電車の中吊り、スマホの中まで脱毛サロンやクリニックの宣伝があふれています。
例を挙げると、
2017年「自慢は、テニスの腕よりキレイなうで← GIRLS POWER」
2018年「わきの甘さは 全身の甘さ」
2019年「整えるのが新常識 VIO脱毛」
など、近年は各企業の言葉も熱さを増しているように感じます。

「この夏は脱毛デビューで愛されBODYを手に入れて♪」
「気になるVIO脱毛、女子に言えない本音を男子に直撃!」
「男目線で気づいちゃうムダ毛ってどこ?ぶっちゃけアリ?ナシ?」
男性目線を用いて女性を煽るメディアの文言も、枚挙にいとまがありません。
上記の記事タイトルは私が書いた架空のものです。でも、見たことがあるような気がしませんか?

小学生の頃に読んでいたキッズ向けファッション誌には、カミソリを用いて体毛を自己処理する方法が載っていました。
その後に読んだ様々な女性ファッション誌やテレビでは女性の体毛を目にすることはなく、美しいとされる人の顔立ち、メイク、体型をインプットすると同時に、体毛は人目につかないように処理することが当たり前だと学びました。

いま世にあふれている広告からも、そういう学習をしている子供がたくさんいると思います。

美容皮膚科の仕事


私が勤務していたクリニックには、脱毛のために中学生から60代までのお客様が来院していました。
体毛をなくしたい人にとって、脱毛できるサロンやクリニックが身近になったのはとても良いことだと思います。
多くのサロンやクリニックでは5回・10回などの回数券方式を取り扱っています。
つまり、回数券の終わりどきはクリニックからの営業どき。



脱毛の施術を行いながら、
「お背中が綺麗になると、契約されていない『うなじ』との境目が気になりますね」
「あと『何回か』やったら完璧になりそうですね(なります、とは言わない)」
などと話しかけて部位や回数を営業するように教育されていました。

冒頭でお話ししたように外見のコンプレックスは早く解決した方がコスパが良い!と信じていた私は、本心から営業トークを繰り広げていました。

ある日、患者さんに冗談っぽく
「女はツルツルの肌じゃなきゃダメだっていうなら、脱毛も保険適用になればいいのにって思いません?」と話しかけられました。
「おっしゃる通りですね」と笑って返事をしたものの、このやりとりが今も心に引っかかっています。

わたしたちはなぜ、体毛がないツルツルの肌でないといけないと思っているのだろう、
そのために、どれほどの時間やお金を使わせられているのだろう、と。

美容皮膚科で働くうちに、私がどれほど羨ましく感じる外見でもコンプレックスを抱えている人にたくさん出会いました。
人の悩みを毎日聞くうちに誰しも悩みがあるという当たり前のことを知り、自分の外見のコンプレックスも和らいだように感じていましたが、「美しくなければいけない」脅しビジネスの末端を担っていただけだと徐々に気づいていきました。

アップデートが始まった美容業界


そんな経験を重ねるうちに「画一的な美」を売るしかない営業活動にも疲れ、クリニックを退職。

清潔感、信頼感、相談しやすい、優しそう、憧れられる…
そんな美容皮膚科の看護師として「あるべき」見た目の枠が外れ、髪をピンクにしてみたり、居心地の良い自分の外見を模索してみました。
最近は、黒髪ストレートが私の内面と乖離が少なく、居心地が良い外見だと感じています。

近年は美容業界の「人間の美しさは1つのものさしで計ることができる」という前提も、徐々にアップデートが始まりました。

除毛用品ブランド「Billie」が体毛をタブーとしない肌の色も様々な動画を公開したり、
 https://youtu.be/XYsacX9LwSw(公式サイト https://mybillie.com/
下着ブランド「Aerie」は多様な年齢・体型・背景を持つモデルを起用したり、
(公式サイト https://www.ae.com/intl/en/x/aerie/featured/real-you-sizing?menu=cat4840006
Lady Gagaが立ち上げたコスメブランド「Haus Laboratories」は、美しさは他者の目の中にあるものではないと謳い、自分自身を愛し表現するための手段としてコスメを売り出しています。
(公式サイト https://www.hauslabs.com/pages/about

このように現在は、美しさを画一的に表現せず、煽らず、押し付けない方法が脚光を浴びるようになりました。

どこまでが「自分のものさし」で、どこからは広告によって刷り込まれた「世間のものさし」なのか。
それもまた、万人に適用できる境界線などないのだと思います。

どんな外見の表現も、個が尊重される社会を目指して


「世間のものさし」で美容を売ることは辞めましたが、外見を飾ったり、自分の身体をケアして慈しむことは今でも私の楽しみの一つです。

・今までと違う色のメイクで気分の仕切り直しをする
・仕事が忙しくてもキーボードを打つ自分の爪が可愛いとテンションがあがる
・一日の終わりにスキンケアで肌の触り心地が良くなったことを実感する

山あり谷ありの毎日をそんなふうに乗りこえることは、ひとつのライフハックだと思っています。

この章のタイトルには、「個が尊重される」と書きました。
これはもちろん、いわゆる「個性的な人」だけが尊重されることだけを目指しているわけではありません。

“量産型女子大生”などの揶揄を目にすることもありますが、モテ・愛されをテーマにしている人や、仕事中は目立たず無難に過ぎればそれでいい人も含めた、すべての個です。
私は、どんな外見も「本人が」選び、自己表現できる社会にしたいのです。
「今日のわたし、ちょっといいじゃん」と思える自分を積み重ねていくことは、他人にどう言われても自分のものさしを守る勇気を育てるはず。
そのための美容をもっと追求したい、人と共有したいと思っています。

今はこんな考えをしている私ですが、先日10年来の友人に
「みほのTwitter見てるけど変わったなぁ、完全に(画一的な美の押し付けに)加担してる側だったじゃん。」
と言われてドキっとしました。
「こうあるべき/こうでないといけない」の呪いを無批判に信じ、それに苦しみ、踊らされ、片棒を担いでいた道のりを正確に記すことから、私のコラムを始めたいと思いました。

「体毛は無くさないといけない」と同じように、外見への呪いは巷にあふれています。

☑二重のぱっちりした目でないといけない
☑太っていてはいけない
☑シミやシワは隠し、若々しくないといけない
☑頭髪は多すぎず少なすぎず、ツヤがないといけない
☑男らしい/女らしい外見から逸脱してはいけない
☑年相応のファッションをしなくてはいけない
などなど。

「美白」「ムダ毛」「アンチエイジング」「ハーフ顔」などの言葉は、それだけで、なにか特定の価値観を反映してはいないでしょうか。
その価値観を受け入れれば、私たちは幸せでいられるのでしょうか。

他人の持って生まれた外見に対して口にすることを許す風潮は、評価された人の気持ちだけでなく、この社会に生きる人々を息苦しくしているのではないかと感じられてなりません。

「美しい」「心地よい」という感覚をひとりひとりの心に取り戻すことができたら、人はもっと自信を持ち、他人にはもっと優しく、社会はもっと明るくなると信じています。
これからこのコラムが、外見についてみなさんと考えていくきっかけになれば嬉しいです。

ライター:飯田光穂
編集:つっきー

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Profile

20代は都内の美容皮膚科で看護師として勤務していましたが、30代で転職してWEBメディアの編集者をしています。
性別・容貌・年齢などへの社会のレッテルを剥がすために日々奮闘中。
同性パートナーと暮らしています。

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